グライダーとは

グライダーとは航空機の貴族である。騒々しく存在を喚くようなはしたないことはしない。長い翼を雲に写して無言で優雅に孤高に翔ぶ。

ハングやパラグライダーに間違えられることは多いけれど、決して声高に言い訳はしない。
ノーブルなフォルム、のびやかな肢体、滑らかな肌、カモメのジョナサンは翼をいっぱいに広げ、静かに高く飛ぶのである。

グライダーは空を滑り降りるだけの愚鈍な道具ではない。縦の気流を間切って翔び、あたかも大海原を征く帆船のように、速く高く遠く旅するのだ。

高度の記録は14,938m、距離の記録は1,460.8kmというのを君は知っているだろうか。高度記録を作った機種はグロブG102、距離の記録はASW12である。日本の滑空場ならどこにでも見かける普通の機種なのだ。スピードは100kmコースで234.95km/h、機種はディスカスAである。これまた珍しい機種ではない。

グライダーは貴族だから、かしづかれるのを当然と思っている。ひとりでは空に舞い上がれない。ひとりでは走ろうとも歩こうともしない。 だからといってグライダーは横着ではない。

空では鋭く翼を傾け、小さく旋回して空気の渦と格闘する。激しくドルフィンもし、超過禁止速度で走ったりもする。ループも打てばシャンデルもロールもする。

スポーツは願うところだ。その気になれば格闘技でもある。 地平線が傾き、風の音が変わる。視野が空で一杯になり、そうかと思うと次は大地が正面に来る。雲は同じ高さにあって、バリオが歌い高度計が回る。そらサーマルだ。

空で汗を流しグライダー・ポートに帰ってくる。草いきれがして大地が迫る。とんと軽快にタッチ・ダウン、仲間が走ってくる。それがグライダーだ。